用語解説


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溶接スラグとは、JIS用語で「溶接部に生じる非金属物質」と定義されていますが、分かりやすく言えば、被覆アーク溶接棒の被覆剤、フラックス入りCO2ワイヤに含まれるフラックスあるいはサブマージアーク溶接におけるフラックスなどが、アーク熱によって溶けてできた滓が溶接スラグです。被覆アーク溶接棒を例にとって、もう少し詳しく説明します。図に示しますように、心線・被覆剤および母材はアーク熱によって一緒に溶かされます。そして、心線の大部分は母材の一部と溶融池を形成した後、凝固して溶接金属になります。いっぽう、被覆剤の大部分は溶けてスラグになり、溶融池で浮遊した後、ビード表面を覆ったような形で凝固します。溶接スラグと言えば、ビード表面で凝固して冷えたスラグを思い出される方が多いかもしれませんが、これは“石炭”が燃えて残った“灰”のようなものです。しかも、溶接終了後のスラグは何の役にも立たないばかりでなく、チッパーで割られたり、ワイヤブラシでこすり落とされたりするわけですから、むしろ邪魔なものとさえ思われがちです。しかし、一見無駄で邪魔なものに思える溶接スラグですが、実は溶接過程においては大変重要な役割を、数秒ないし十数秒という非常に短い時間内で果たしています。溶接スラグが果たしている役割の中から大事なことをまとめてみますと、大体次の3項目になります。1)脱酸、脱硫反応などによって、溶融池から不純物を除去する。2)溶融している金属を均一な力で押さえることにより、ビード幅やビードの波を美しく整える。3)凝固直後の溶接金属を大気から保護し、酸化や窒化を防止する。もっと簡単に言えば、溶接スラグは包装(ビード外観)が綺麗で、中身が美味しい(品質が良好な)お菓子(溶接金属)を作るために一所懸命働いているのです。しかし、スラグさえあればどのようなスラグでも同じ効果が得られるという訳にはいきません。スラグ中に含まれている各成分はそれぞれの分担が決まっており、それらが一緒になっていろいろな役割を果たしているのです。また、溶接姿勢や溶接入熱などによっても、スラグに要求される性質が異なるため、被覆剤の成分を目的に応じて調整することが必要になってきます。その結果、同じ被覆アーク溶接棒でも、作業性を重視したチタニア系溶接棒、機械的性能を重視した低水素系溶接棒、あるいは両者の中間的な性能を有するイルミナイト系溶接棒など、数多くの溶接棒が作り出されるのです。さらに、例えば被覆アーク溶接棒における立向下進溶接や水平すみ肉溶接、およびサブマージアーク溶接における薄板の高速溶接や厚板の大入熱溶接などが、スラグ成分を調整することによってそれぞれ可能となるのです。以上述べてきましたように、アーク溶接における溶接スラグは非常に重要な役割を果たしており、溶接過程においては決して役にも立たない“灰”ではなく、心と容姿の美しい女性を作りだす“化粧品”のようなものです。適した化粧品を上手に使うことにより、我われの手で多数の“美人”を作りたいものです。(1985年4月号)溶接スラグ156156


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