用語解説


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溶接熱影響部とは、その名のとおり,溶接による熱の影響を受けて組織的に変質した母材部分のことです。その変質の程度はさらされた温度により異なります。溶着金属に接した部分は溶融点近くまで加熱され、組織的には結晶粒の粗大化が認められます。また急速な冷却により硬さも最高の値となります。そしてそこから遠ざかるにつれ、組織も硬さも母材のそれに近づいていきます。図1を見てください。これは高張力鋼の溶接部断面での硬さ分布を示したものですが、溶着金属に接した母材部分が最も高い硬度となっているのがおわかりいただけると思います。これを溶接熱影響部の最高硬さ、HVMAX.とよんでおり、特に高張力鋼、低合金鋼では急冷によるマルテンサイト組織の生成により、硬さの増加が著しくなっています。では、このHVMAX.は鋼の溶接性に対しどんな意味を持つのでしょうか。一般に硬さが増すと強度は増加しますが、伸び、絞りなどの延性は低下するので、HVMAX.が高すぎるとビード曲げ試験などで亀裂が発生しやすくなります。また硬さの増加は、溶接部にとって最もきらうべき溶接割れ(冷間割れ)を引き起こす要因の一つとなっています。図2は斜めY型溶接割れ試験により冷間割れに及ぼすHVMAX.の影響を調査した結果ですが、硬さの増加とともに割れやすくなっていくことがおわかりいただけると思います。溶接割れは硬さのみでなく、その他もろもろの因子が重なって起こるものですが、少なくとも硬さについては低いにこしたことはないことはこれからもわかるわけです。ところで、HVMAX.はどんな因子に支配されているのでしょうか。HVMAX.は大きく次の二つの因子、即ち、1)母材の化学成分2)加熱温度からの冷却速度によって支配されます。母材の化学成分とHVMAX.の関係についてはいろいろな関係式が提唱されていますが、基本的には炭素当量の増加とともにHVMAX.が直線的に増加するという関係が成立しています。冷却速度については、急冷されればされる程HVMAX.は高くなります。ですから、“板厚の厚いものを予熱なしに小入熱で”というような急冷条件による溶接はHVMAX.の増加、ひいては冷間割れをまねく結果となります。冷間割れ防止策の一つに予熱の実施がありますが、これは溶接部が除冷されることにより割れの要因の一つである水素の拡散放出を期待していることのほかに、急冷を防ぐことによりHVMAX.の低下をねらっているものなのです。引用文献1)溶接冶金学新成夫著2)溶接棒各論㈱神戸製鋼所(1985年3月号)溶接熱影響部の最高硬さ155


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