用語解説


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溶接部、母材とも鉄鋼材料の最も大きな特徴の一つは、熱処理によってきわめて広範囲にその元の性質を変えることができることです。これは人間の場合、美しくなりたい人には美容体操を、腕に力をつけたい人にはバーベルを使用するとか、あるいはもっと持久力をつけたい人にはマラソンを、というように目的に応じて行う運動が違ってくるのと似ています。熱処理方法としては、その目的に応じて非常に種々の方法がありますが、ここではその中の代表格である「焼入れ」、「焼もどし」、「焼なまし」の三つの方法について解説します。1.焼入れ(QUENCHINGHARDENING)鉄鋼材料をオーステナイトの状態に加熱、保持した後、水や油などに入れて急冷する熱処理方法のことを「焼入れ」といいます。焼入れの際の保持温度としては、A3変態点以上30∼50℃ぐらいが普通で、C量0.85%以上の過共析鋼では、A1変態点以上50℃ぐらいに保持するのが普通です。焼入れの目的は、その材料を硬くすることですが、これはオーステナイト状態からの急冷によって、組織がマルテンサイト化するためです。焼入れすることによって硬くなる度合は、ほとんどその材料のC量によって左右され、一般にはC量が高くなればなるほど硬くなっていきますが、0.6%以上ではそれ以上増加しても、あまり硬くはなりません。Cの効果ほどではありませんが、焼入れする際にMN,AL,SI,NIなどの合金成分を適当量含有させると焼きが入りやすくなります。2.焼もどし(TEMPERING)焼入れ状態のままでは、材料は硬くはなっていますが、反面非常にもろく、組織的にも安定した組織とはなっていません。このため、その材料に靱性を与えて粘くし、実用に供するようにする目的で行われるのが「焼もどし」です。これは、いったん焼入れた材料をA1変態点以下の温度にまで再加熱し、焼入れによる不安定状態を安定な組織の状態にします。焼もどし処理としては一般に200℃前後の低温で焼もどす低温焼もどしと、500∼600℃程度の温度で行う高温焼もどし処理の二種類に大別されます。前者は硬さや耐摩耗性を必要とする工具用材料に行われる方法で、この焼もどし処理により炭化物、窒化物の一部を微細析出させ硬さの安定化を計ります。後者は一般的に用いられる方法で、通常焼もどしといえば、この処理のことをいいます。この処理により、焼入れによって生じたマルテンサイトを分解し、フエライト地に炭化物が球状に細かく分解した形にし、硬さとともに靱性を向上させます。いっぽう、W,V,MOのような炭化物形成力の強い元素を添加させると、この600℃付近の加熱で逆に硬くなることがあります。この現象は、これなどの合金成分のある種の炭化物が析出するためで、このことを別に“DRAWING”と呼ぶ場合があります。人間を鍛える場合、よく「焼きを入れてやる」といいますが、焼き入ればかりでなく、このように焼もどしも同時にし、粘り強い人間にしてあげた方が親切というものです。3.焼なまし(ANNEALING)材料をある温度に加熱後、室温まで冷却する熱処理方法のことをいいます。焼なましの主な目的としては、①内部応力の除去(加工によって生じた歪などの除去)②軟化③結晶粒微細化④材料中に含まれるガスの除去などでありますが、これらの目的別に方法としては二種類に大別されます。一つは「完全焼なまし」と称されるもので、材料をいったんオーステナイト化した後、炉中冷却などきわめて徐々に冷却する方法で、これは上述の①②③を主目的とするものです。もう一つは「中間焼なまし」と称せられ、材料をA1点近くまで加熱後冷却させる方法で、この目的は①および②です。普通、加熱温度は550∼650℃の間です。以上、各種熱処理法のうち「焼入れ」、「焼もどし」、「焼なまし」について解説しましたが、このように種々の熱処理によって、本来持っている性質を変えることができる点はがねで、鋼は一種の「生きもの」であるといえるでしょう。この「生きもの」をその使用目的に応じて使い分けるのが、各種熱処理法の本来持っている役目なのです。(1982年5月号)焼入れ・焼もどし・焼なまし149


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