用語解説


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アークの安定性はビード外観・形状や溶接欠陥発生に直接影響する重要な因子です。安定性のよいアークとは、定常条件下での安定性に加えて、運棒操作等によりワイヤ突出し長や溶融池に対するワイヤの位置(アークの配置)が変動した時にも、アーク発生状況に変化が少なく、円滑に対応する状態を言います。また安定したアークではスパッタの発生等も減少します。溶滴移行形態とアークの安定性定常条件下でのアークの安定性を溶滴移行形態の面からみると、ワイヤ先端が溶融して形成される溶滴の性状に大きく左右されることが判ります。表1に、溶接電流やシールドガス組成により変化する溶滴の移行形態を示します。(Ⅰ)スプレー移行は、MIG溶接を特徴づける移行形態で、通常、非常に良好なアーク安定性を示します。溶滴が細く、アークと溶滴間の相互作用が小さいので、スパッタもほとんど発生しません。アーク電圧が高すぎるとアークの振らつきや溶滴池のなじみが悪くなり、アークが不安定になります。(Ⅱ)グロビュール移行は、大電流を使用する炭酸ガスアーク溶接での典型的な溶滴移行形態です。溶滴は大きく、アークは主に溶滴の下面から発生します。このため、溶滴が大きく成長してもアークの反撥力のため移行しにくく、またアーク発生点が移動するので、不安定なアークとなり、スパッタも多量に発生します。溶滴落下の直後では、瞬間的に消弧したり、アーク長が急激に増大するので、最も不安定なアーク状態を呈します。(Ⅲ)全姿勢溶接や薄板の溶接に適用される短絡移行形態でも、アークは溶滴下面に形成されます。しかし、溶滴の成長に応じて短絡・点弧が規則的に繰返されるため、アークが安定しやすい移行形態です。短絡回数が多くなると溶融池の揺動も小さくなり、アークがソフトな感じになります。(Ⅳ)フラックス入りワイヤの溶滴移行形態は、大きくグロビュール移行に分類されます。しかし、ソリッドワイヤの場合と違ってフラックス中に電離しやすい物質が比較的多量に含まれており、それがアーク安定剤として作用するので、溶滴が比較的小さいこともあって、一般に安定したアークが形成されます。溶接機による安定化制御半自動溶接の場合、手溶接(被覆棒)と異なり、溶接中のアーク長のコントロールは溶接機自体が溶接電流やワイヤの送り速度を自動的に変化させて行う仕組みになっています。1.6∼2㎜Φ程度以下の細径ワイヤを使用する通常の半自動溶接用電源では、定電圧制御と呼ばれる方式により、アーク長を制御しています。この方式ではアーク電圧とワイヤ送給速度はほぼ一定に保持されるようになっており、何等かの原因によりアーク長が長くなると、溶接電流が自動的に低下し、ワイヤ溶融速度が減少して元のアーク長に戻ります。また逆に短くなった場合では、溶接電流が増加してワイヤを急速に溶融させ、アーク長を一定に保ちます。このほかにも2.4㎜Φ以上の太径ワイヤを使用する場合、アーク長制御をワイヤの送り速度の変化により行う方式もあります。また最近、スパッタの低減効果により注目されているパルス電源は、通常の定電圧電源ではスプレー化しない低溶接電流でも、瞬間的な高電流(パルス電流)を連続して重畳させることにより、強制的な溶滴の細粒化・移行によってスプレー化させます。これによりアークと溶滴の相互作用を小さくして、安定したアークを得られるようにしたものです。このように半自動溶接の場合のアーク安定性は溶接材料と溶接機の双方の効果により、維持されているわけです。しかし、空間に形成されるアークは本質的には不安定で、磁気、風、母材の表面状況等の外乱の影響を容易に受けます。従って、溶接材料、溶接機の両面からいっそうの安定性向上が図られてはいるものの、最終的には使用者の溶材、機器、その他の保守の影響が大きいことをつけ加えておきます。(1984年5月号)半自動溶接でのアークの安定性120120


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