用語解説


>> P.117

突合せ溶接を行う場合、両側から溶接する場合と、片側からのみ溶接する場合とがあります。片側から溶接を行う場合は①金属裏当て金を用いる。②フラックス裏当てや銅裏当てなどを用いる。③裏当てを用いない。のうちのいずれかの方法が用いられます。例えば配管小径パイプは片面から溶接されることが多く、この場合は上記の方法のうち③、すなわち裏当てを用いない裏波溶接がしばしば行われます。裏波溶接には専門の被覆アーク溶接棒が炭素鋼用としては開発、実用化されていますが、低合金鋼、高合金鋼、非鉄金属などが対象となる場合や、安定したビードを確実に得たい場合などではTIG溶接が一般的です。TIG溶接で裏波溶接を行う際、表ビードのシールドはもちろんですが、裏ビードに対しても不活性ガスでのシールドが必要な場合が多くあります。これをバックシールドと言いビード裏面が大気にさらされることにより、ビード表面への酸化膜の生成、ビード外観不良、気孔や割れなどを防ぐ目的で行われます。例えば、ステンレス鋼をバックシールドを行わないで溶接すると大気中の窒素が溶接金属中に吸収されフェライト量が低下したり、裏ビードの外観不良、酸化被膜の生成などの問題が生じます。また非鉄金属では溶接材料中に脱酸剤が多く添加されていますので、大気中で溶接を行えば酸化被膜の生成、裏ビードの外観不良などが生じやすく、さらには耐食性の劣化、割れ発生などの原因となってしまいます。これらのことから、特に合金元素を多く含む低合金鋼以上の合金鋼や非鉄金属の裏波溶接をTIG溶接で行う場合はバックシールドが必要となります。シールドガスは一般にARが用いられます。バックシールドの方法としては溶接部分全体に対して均一にシールドを行う場合と、シールドを必要としているところに対してだけ行う場合とがあります。前者は小径のパイプの場合のようにパイプのいっぽうの口をふさぎ、パイプ内部の空気をARで置換して裏ビードの酸化を防ぐ方法であり、後者は溶接中のビード裏面近傍のみを特殊な治具を用いてシールドするものであり、平板や太径パイプなどで行われることがあります。しかしながら一般に裏波ビードを出すのは裏からの溶接が不可能な小径のパイプの溶接を対象とすることの方が多いようです。パイプのバックシールドはパイプの片側をゴムその他適当な方法で密閉し、またいっぽうの側から不活性ガス(AR)を注入し、開先部全体よりガスがわずかずつ出て来ていることを確認した上で溶接を行う必要があります。ただし溶接完了直前にガスを止めるか、またはガス抜きを設けておかないと内部のガスの圧力でクレータ部を貫通してガスが噴出することがあり注意を要します。シールドが完全であれば酸化されていない美しい裏ビードが形成されます。またバックシールドは通常第一層目の溶接のみならず、第二層目の溶接時にも行う必要があります。これは第二層目溶接時に第一層目ビードも赤熱し、バックシールドを行わないと酸化されてしまうためです。一般の正しい溶接においては溶接金属はスラグやシールドガスにより大気からしゃ断され健全な溶接部を形成することができます。裏ビードも同様に、健全な溶接部とするためには十分なシールドを必要としています。(1982年2月号)バックシールド117


<< | < | > | >>