用語解説


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図1は鋼材の引張試験における荷重(応力)―伸び(ひずみ)曲線の代表的なものです。この図から分かりますように弾性限を越えた鋼材は、応力が増加せずにひずみだけが増加しますが、この現象を降伏と呼びます。(図1のC点やD点)。この時の最大荷重(㎏)を原断面積(㎜2)で除したものを降伏点と呼びます。しかし、降伏が現れない鋼材においては、残留ひずみが0.2%となる点(図1のG点)を降伏点とみなし、0.2%耐力などと呼んでいます。降伏点よりさらに応力が増加すると、ひずみが増加してついには破断しますが、それまでに現れる最大荷重を原断面積で除したものを引張強さと呼びます。そして、引張強さと降伏点の比を降伏比(YR)といい、次のように表します。YR(%)=降伏点────引張強さ×100低降伏比鋼材とは、鋼材の規格内で降伏点を低く、引張強さを高くなるようにし、降伏比を低く設計された鋼材です。それでは、なぜ降伏比なのでしょうか?最近では超高層ビルは珍しくなくなりましたが、人が居住するこれら建築物の安全性を高めることは非常に大切です。有数の地震国であるわが国では、建物は、一生に一度、つまり数百年に一度来るかもしれない地震に遭遇しても部分的な破損で済み、全体は倒れないという考え方で設計されているのです。もう少し専門的に言いますと、超高層建築の骨組みは、梁が降伏しても柱は弾性限を保つよう設計するという基本思想があるそうですが、降伏点の高すぎるつまり降伏比の高い鋼材を用いると基本思想を逸脱して、大地震に遭うと変形能力がなくなり、建物は倒壊してしまう1)からだそうです。上記のような理由から、建築用鋼材は、JISに規定される機械的性質を満足することはもちろん降伏比をある上限値以下(例えば≦80%)に保つことを要求されるのが一般的です。ところで、ビルの超高層化がどんどん進む中、低降伏比590N/㎜2級高張力鋼(以下HT590鋼)の適用も増えてきています。従来のHT590鋼は高い引張強さと高い降伏比を有する鋼材ですが、低降伏比をHT590鋼は高い引張強さと低い降伏比を有する鋼材ですので、材質ひいては製造法が違ってきます。従来材は焼入れ・焼きもどし(QT)処理が施されベイナイト組織となっているのに対し、低降伏比鋼は降伏点を下げるため降伏点の低いフェライト組織をベイナイト組織中に混在させるよう図2のようなQQ'T処理が施されています。最近はいろんなところで、環境や安全の問題が取り上げられていますが、我われの知らないところで、多くの努力や工夫がなされているようです。参考文献1)真喜志、田中、岡松:建築鉄骨に用いられる鋼材と溶接の現状、溶接学会誌、VOL.58(1989),NO2,123(1990年7月号)低降伏比高張力鋼97


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