用語解説


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船や橋などの鋼構造物が、主として溶接部近傍から発生した亀裂の伝ぱによって、瞬間的に破壊してしまう現象――脆性破壊――については皆さんよくご存知のことでしょう。第二次大戦中にアメリカでLIBERTY船(戦時標準型船)が何隻も沈んだのはこの脆性破壊が原因です。一般に脆性破壊は、切欠きとなる欠陥があること低温であること外部から荷重が加わることなどによって生じ、約1000M/SECの速い速度で破壊が進展します。鋼材や溶接金属がこの脆性破壊を起こしやすいかどうかを調べるため、シャルピー衝撃試験、COD試験などの簡易な試験が行われています。シャルピー衝撃試験における衝撃値と試験温度の典型的な関係を図1に示します。試験温度の高温側では吸収エネルギーが高く延性破面を呈し、低温側では吸収エネルギーが低く脆性破面を呈します。この間で吸収エネルギーが温度の低下とともに急激に変化する領域を遷移領域と呼び、その間の温度を遷移温度としています。以下にV切欠き付シャルピー衝撃試験結果による遷移温度の種類をいくつか紹介します。いずれもその温度が低いほど試験材の靭性が優れていると言えます。破面遷移温度VTRS(VTRS50):脆性破面がもとの断面積のを占める温度。VTRS90∼100:延性破面が90∼100%であって最初に脆性破面が現れる温度。エネルギー遷移温度VTRE:吸収エネルギーが靭性状態(延性破面率100%)の値のになる温度。VTR15:吸収エネルギーが15FT―LB(20J)となる温度。試験材がその弾性限内の低い荷重で脆性破壊(降伏点破壊)を起こす温度に相当する。また破面の横膨出量が15MIL(0.38㎜)となる温度VTR15MILや延性破面が0%となる温度VTRS0もこれに相当すると考えられている。VTR30∼35:吸収エネルギーが30∼35FT―LB(41∼47J)となる温度。試験片に亀裂が発生した後、それが延性的に伝ぱすることなく直ちに脆性破壊に至る温度に相当する。延性破面率が25%となる温度VTRS25もこれに相当すると考えられている。このように一口に遷移温度と言ってもいろいろな種類があります。これらの遷移温度に大きな影響を与える因子として、鋼中あるいは溶接金属中の添加元素や熱処理方法が挙げられます。例えば鉄原子のすべりやすさを妨げるような非金属介在物、析出物、炭素・窒素など侵入型原子の固溶などは、一般的に遷移温度を高めると言われています。また焼入れを行った場合もマルテンサイト組織となってすべりを生じにくく、遷移温度を高めると言われています。以上示したように、遷移温度は溶接鋼構造物における低応力での脆性破壊の起こりやすさと密接な関係があります。そのため遷移温度は材料の靭性を判定する基準として広く用いられています。(1983年8月号)遷移温度8686


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