用語解説


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図1 シャルピー衝撃試験片形状(JISZ3112-1976より)(JISZ3112は廃止されており、現在はJISZ3111が用いられる)脆性破壊とは文字どおりもろい破壊ということですが、この言葉ですぐ思い浮かべるのが瀬戸物やガラスのこわれ方でしょう。むだとは知りながら瀬戸物の茶碗の割れた部分を合わせてみると、全然変形していないので、元どおりの形になることが分かります。このように塑性変形を伴わない破壊のことを脆性破壊と呼んでいます。ところで常温での引張試験で数十パーセントの伸びを示す軟鋼や高張力鋼およびその溶接金属も“ある条件”のもとでは瀬戸物やガラスのようにもろい壊れ方をし、しかもその破壊に必要な力も、その条件のない場合の数分の一以下という値で十分であるというと驚ろかれる方もいらっしゃるでしょう。また、この種の破壊は非常に速く伝わる(数100∼1800M/秒)ため、大きな構造物も瞬時にして壊れてしまいます。これが溶接構造物でよく問題になり、かずかずの事故の原因とも考えられている脆性破壊です。特に溶接継手では、不注意な溶接施工が先に述べた“ある条件”の一つとなっているのです。この“ある条件”つまり脆性破壊の必須条件とは低温と切欠の存在です。鉄鋼材料の脆性破壊に対する性能を調べる試験も数多くありますが、その中でもその簡便さから最も多く使用されているのがシャルピー衝撃試験でしょう。この試験は、一般に図1に示すような切欠を持つ試験片を、いろいろの温度で壊し、それに必要なエネルギー(吸収エネルギー)や壊れ方を調べるものです。図2にこのシャルピー衝撃試験における温度―吸収エネルギー曲線と破面外観を模式的に示します。高温では繊維状破面(延性破面:鈍い灰色を示す)で、壊すのにも大きなエネルギーが必要であり、その場合断面も元の正方形から大きく変形しています(図2AまたはB)。ところが温度が下がるに従って結晶状破面(脆性破壊:キラキラ光って見える)の占める割合が大きくなり、吸収エネルギーも小さくなり、断面の変形もほとんどなくなっています。(図2CまたはD)つまり一般の鉄鋼材料は低温になる程もろくなる性質を持っているのです。しかし低温であるだけでは、先に述べたような脆性破壊は発生しません。それにはもう一の条件、切欠の存在が必要なのです。つまり低温によりもろくなった材料と切欠先端に生じる応力集中(切欠があると、その先端には全体にかかる何倍もの応力がかかる。)によって、全体としては低い応力であっても脆性破壊が発生するのです。溶接継手について考えてみますと、切欠となる要素を多く持っていることが分かります。その代表的なものは溶接割れでしょう。またビード端部のアンダカットも十分切欠としての役目をはたします。また必須条件ではありませんが、溶接のひずみによる角変形や残留応力も脆性破壊の発生温度を上昇させる、すなわち破壊が発生しやすくなる一因となることが知られています。さらに過大な溶接入熱も母材の熱影響部を脆化させ、脆性破壊の発生温度を上昇させますので注意が必要です。従って、溶接施工に際しては、使用温度域での切欠靱性の良い溶接材料を選ぶと共に、先に述べた溶接欠陥を作らないよう、決められた施工要領を守ることが大切です。(1980年9月号)ぜいせい脆性破壊8484


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