用語解説


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「鋼」というと誰しも“硬くて強い”とか“頑強なもの”といったイメージがわくと思います。ところでこのように強い鋼は、いったいどのような作り(組織)になっているのでしょうか。今回はそれについて触れながら「初析フェライト」を述べてみましょう。さて、「鋼」は鉄にC,SI,MN,NI,CR,MO,TI,B,NB,Vなどいろいろな元素のいくつかを適当量添加したもので、必要に応じてさらに熱処理を施したり、鍛えたりされます。これはわれわれが利用するのに必要かつ十分な「強靱な性質」を得るために行われているのですが、この結果、得られた鋼もその組織は、決して強靱な性質の単一の相からできているのではありません。例えて言うなら、粘土のような軟らかい相とダイヤモンドのような硬い相が顕微鏡で見てもまだ細かに見えるほど、微細に分散して、層状に重なったり、一方を他方が取り囲むように位置したり、いろいろな混じり方で混ざりあって“強靱な性質”を発揮しているのです。金属学では、この軟い相をフェライト、硬い相をセメンタイトと呼びます。フェライトとは、純鉄にわずかなC(室温で0.008%以下)を含んだ相で軟らかくて延性に富みます。一方、セメンタイトは、FE3Cとも書かれるカーボン量の高い炭化鉄で硬くてもろく、ほとんど延性はありません。この両者が入り混じることにより強さと粘さが備わるわけですが、各々のサイズ、混じり方の違いで性質も変化し、顕微鏡でも別の組織に見えるため、パーライト、トルースタイト、ソルバイトなどと区別されます。(図1参照)次に、フェライトとセメンタイトがどのようにして混じりあうかを、一例として0.45%炭素鋼に見てみましょう。(図2参照)この鋼を溶融状態からゆっくり冷やしていくと、オーステナイトという単一の固相ができます。このオーステナイトは軟らかくて延性があり、人間で言えば太っ腹な人物で、溶鋼中に存在していたCを“俺にまかせろ”とばかりに抱え込みます。例えば塩水を凍らせると、塩と氷とが別の結晶となりますが、この場合Cだけで別の固相を作るということはありません。さて、温度が780℃まで下がると、その一部はわれわれがイメージチェンジをするのと同じように、フェライトへ変身を始めます。すなわち、固相から別の固相が生じるのです。これを析出と呼び、このときできるフェライトは最初に析出するフェライトの意で、「初析フェライト」と呼ばれます。この析出はオーステナイト粒境界で起こり、温度が下がるにつれて初析フェライトは大きくなります。フェライトは自己中心的でわずかのCしか受け入れませんから、大部分のCは取り残されたオーステナイトへ引き取られることになります。しかし、723℃まで温度が下がるともはやオーステナイトは存在できなくなり、フェライトとセメンタイトに分解します。両者は2相混合の層状組織となって現われますが、これが前記したパーライトです。以上述べたのはほんの一例で、鋼の組織は成分、冷却速度、熱処理により千変万化します。(図3参照)初析フェライトはCが少なく、冷却速度が遅いときに生成され易く、また大きくなり強度を低下させます。溶接に際しては強度不足を生じる一因となることがあります。(1982年1月号)初析フェライト図1パーライト組織(×500)A冷却速度105℃1MINB冷却速度1℃1MINB図中白:フェライト黒:パーライト図30.23%の鋼の冷却速度による組織の変化、×40(×8/10)7272


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