用語解説


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溶接作業中に母材の端の部分などで、思わぬ方向にアークが吹かれることがあります。写真1では右方にアークが吹かれています。この現象は溶接電流がアークのまわりに作る磁界の影響によって起こるので、磁気吹き(MAGNETIC―BLOW)と呼ばれています。直流200A以上になると、磁気吹き現象が著しくなり溶接作業が妨げられることがあり、しばしば問題となっていますが、交流では直流に比べて磁気吹きは少なくなります。これは交流の半波の期間で磁気吹きが成長する暇がないからだと考えられています。それではこの磁気吹きはなぜ起きるのでしょうか?図1(A)に示すように磁界中の導体に電流を流すと導体に力が働くことは、フレミングの左手の法則としてよく知られています。このとき導体のまわりの磁界は、図1(B)に示すように導体中を流れる電流によってできる磁界と、図1(A)のような一様な磁界との合成で図1(C)のようになります。磁力線密度の大きい部分が小さい部分の方へ力を及ぼすので、導体は手前の方へ押されることになります。アークはフレキシブルな導体なので、この力によって自由に曲げられるわけです。このように磁気吹きはアークのまわりの磁界がアークに対して非対称な場合に起こるのです。例えば図2(A)に示すように母材の左方にアースを接地すると、電流は母材中を図の矢印で示すように流れ、この電流が図のF方向の磁界を生じさせます。アークのまわりの磁力線分布は、磁界Fが加わることによりアース側が密となるので、アークはアースと反対側に吹かれます。図2(B)のように母材への接地を両側にとって、母材中の電流の磁気作用を互いに打消すようにすれば、端部以外では磁気吹きは起こりません。また、接地が図2(A)のように左方にあっても、もし母材が広く、かつ接地位置とアーク発生位置が十分へだたっていれば、電流は母材中に広く分布して四方からアーク発生部に集まり、アーク附近では図2(B)に近い電流分布となって磁気吹きはほとんど起こりません。これとは別に、鋼材(強磁性体)の溶接では図3に示すように端部を溶接する場合に、アークは中心に向かって吹かれます。これは図3に示すように溶接電流による母材中の磁界を考えると、磁力線は鋼中を通りやすいので母材の広い側に吸い寄せられるからです。鋼片を端に添えたり、端に大きな仮付けをすることによって磁力線の通路を設けると、磁界の偏りが小さくなって磁気吹きは緩和されます。(1982年10月号)磁気吹き写真1TIG溶接における磁気吹き6464


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