用語解説


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まず、ここで解説します内容は鉄鋼材料に限ることにします。というのは金属の種類によっては以下に述べます「水素の溶解度」や「水素の拡散」における水素の振舞いが鉄鋼の場合と異なることがあるからです。参考図を見てください。これは1気圧のもとで各温度における純鉄中の水素の溶解度(鉄中に安定に存在し得る最大の水素量)を示した図です。つまり、溶けている鉄中には固体鉄に比べ、比較的多量に水素が溶込む余地があります。これを溶接の場合に当てはめますと、溶接フラックス中の水分が多かったり、鋼板に錆やペイントが付着していたりして水素の発生源がたくさんありますと、溶融状態の溶接金属中にはどんどん水素が入込むことになります。これによって溶融金属の溶解度量の近くまで水素が溶込みますと、凝固すなわち固体鉄になる際には水素を放出しなければなりません。というのは、固体鉄中には溶鉄中に比べずっと少ない量しか溶解できないからです(参考図での結果によれば、固体鉄中への水素溶解度は最大でも100Gの鉄に対して10C.C.足らずですので、重量比に換算しますと、0.0009%弱ということになります)。また、溶融金属中の水素溶解量が固体鉄中の最大の溶解度よりも少ない場合でも、参考図から解るように温度が下がるにつれて、溶解度は小さくなっていますので、いつかは溶解度と同じ量になります。このように溶解度と等しい状態を鉄中の水素量は「飽和」しているといいます。ところで、鉄中の水素は水素原子の形で鉄結晶の原子と原子の間にもぐり込むようにして溶込んでいます。いま、このようにして溶解している水素原子の濃度が異なるところの二つの金属が接している場合を考えます。両者の金属が同じ水素溶解度を持っている場合は濃度の高い方から低い方へと水素原子が移動します。また、水素溶解度が互いに異なっている場合や、いっぽうが金属でない場合でもその溶解度(相手が空気のような気体の場合は水素分圧)に応じて、より安定な状態へと水素原子が移動します。この移動のことを「拡散」と呼びます。また安定になった状態を「平衡状態」にあるといいます。さて話を溶接金属に戻しますと、温度の降下によって固体溶接金属中の水素量は飽和量に達します。上述の拡散は温度が高いほど、活発に起こりますので、温度がまだ高い内は拡散によって水素が逃げるのですが、溶接金属の温度がどんどん降下してしまいますと、ついには逃げ切れなくなった水素が水素の溶解度よりも過剰な状態(これを過飽和という)となって閉込められ、しかも上述の拡散も活発でなくなります。室温の溶接金属中に閉込められた水素は時間をかけて拡散し、大気中に放散したり、隣接している母材中に移動していき、ついには母材も含めて金属中の水素が実質的に移動しない平衡状態となります。これまで述べた中で移動する水素のことを「拡散性水素」と呼び、平衡状態となって金属中に溶解している水素のことを「残留水素」と呼びます。鋼溶接部の拡散性水素量の測定方法はJISZ3118―1992に規定されていますが、溶接直後の溶解水素を閉込めるために溶接完了の5秒後に氷水につけて急冷するなどの工夫がされており、45℃で72時間放置した時に放出されている水素量を測定しています。測定方法としてはガスクロマトグラフ法とグリセリン置換法があります。なお、常温付近で徐々に拡散する水素は溶接金属中や母材HAZ部などの特定の場所に集積することによって割れを発生させることがあります。いわゆる遅れ割れですが、他に解説されていると思われますので、ここでは省略致します。(1984年9月号)拡散性水素3030


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